10月9日 アーグラーへ
朝5時半起床。今日は7時15分発の列車でタージマハールで有名なアーグラーへ向かう。
ガイドブックによれば車内で朝食のサービスがあるらしい。身支度だけ済ませて駅へ向かう。
まだ空いている道路には、制服を着た子供達を乗せた乗合リクシャや馬車が。彼等の好奇心丸だしの視線を受けつつ駅に到着。
駅は人でごったがえしている。以外にあっさりと自分達の列車が来るホームを見付けて人々の列に加わったのだが、まぁ〜見られること。
周りの皆の視線を二人占め。それも皆横目でチラチラ見るのではなく、じ〜っと観察するように見るのだ。パンダの気持ちが分ったような気がした。
しかしあそこまで清々しいほどあからさまに見られると、不思議とイヤな感じはしない。緊張するけど。
期待に答えてなんか奇異な行動でもしてみようかな・・・などと思っていると列車が入って来た。
始発駅なので、出入り口の横に座席予約者のリストが貼ってある。
遠い異国の地で自分達の名を発見して「お〜っ!」などど盛り上がる。スペル間違ってたけど・・・。
始発駅なのに20分ほど送れて走り出す。
スグに切符をチェックする人が来たのだが、大柄で色メガネをかけ、白いズボンに茶色のジャケットを着たおっさんは見た目完璧なヤクザ。
インド人は眼光鋭く、そうでなくても黙っていると迫力があるので本当にコワイ。
アーグラーまでは約2時間半。通路側の席だったのと窓ガラスが黄色かった(たぶん日光を遮るため)ため、残念ながら外の景色は見えず。
しかも朝食と紅茶は有料。話が違うぅぅ・・・。
一番良いクラスの車内 切符はこんなの
あまり良い気分ではなかったが、とにかくアーグラーに着く。
冷房の効いた車内から降りたとたん、むあっとまとわりつく熱気とタクシー&リクシャの運チャン達。
あららと思う間に一人がスーツケースを持って自分のタクシーに積みこんだ。まぁ、高かったら払わなきゃいいか・・・と思ってホテルの名前を告げる。
日本で予約したここのホテルは地元でも有名で、お値段もなかなか。(でも二人部屋で¥5,000ほど)従業員の愛想も良く、ホッとするものがあった。
ホテルに着いてタクシー代を払おうとすると、800Rsで一日チャーターしないかと言いだす。
高いからやだ、といくら言っても引き下がらない。諦めさせるつもりで「200Rsならエエで。」
と言うと、なんと苦笑しながらOK。後で考えるとと〜ってもお得やった。
サドと名乗った運チャンはインド人にしてはキレイな英語を話す人だった。彼は1冊のノートを出して
「日本人の友達いっぱいいるよ〜」と私達に見せた。そこには日本語で『この人は本当に良い人です』とか『とっても楽しい一日でした』とか書いてある。
以前に捕まえたお客に書かせたのだろう。もちろん彼自身は読めないと思うので、一つくらい
『騙されるなぁぁ!今スグ逃げろ!』とか書いてあっても面白いんじゃないかと思ったが、残念ながら見あたらなかった。
毎週月曜、タージマハールはクリーニングのため休館とのこと。で、アーグラー城へ向かう。
タージマハールと並ぶ観光名所だけあって、近づいていくほどに道路は混雑を極めていく。インド各地からも観光バスがやってくるようだ。
赤砂岩でできた城壁が見えると、思わず「おお〜!」と言った後絶句してしまった。とにかくデッカイ。
日本の大阪城だとかなんてオモチャかと思うほど大きい。あんな大きな建造物は初めて見たと思う。
そこでしばし感動に酔いしれていたくても、インドの人々は許してくれない。
「絵葉書はどうや〜。」「土産買ってけ〜。」手品のようにできる人垣。観光名所だけあって、物売りの人数もハンパではない。
それらを文字通り掻き分けて入場券売り場へ。見るとインド人と外国人では料金が違う。インド人5Rs、外国人55Rs也。
ちくしょ〜と思っても、インド人のフリをするのはちょっと難しいので大人しく払う。
城に入ると物売りは来なくなったが、今度は「ガイドはいらんか?」と来る。またもや人垣。
「ちょっと、写真撮るねん、そこジャマジャマ。」と言って追い払ったスキにさっと通りぬける。
全て石で作られた城は繊細な彫刻で飾られていて、ため息がでるほど美しい。イイ道具もなかったであろう時代に、
よくもまぁ硬い石を削って・・・。インド人も大したものではないか。
上の階にあるテラスのような所に出ると、眼下にはヤムナー河と何処までも続く平原・・・。
そのはるか向こうにおぼろげに見える、タージマハールの白き姿。う、美しい。日本では絶対にお目にかかれない大パノラマ。
写真のフレームに収めきれるモノではないので、ひたすら目に焼き付ける。
しかしこの石の城、大変豪華で美しいのだが住み心地はどうやったのやろう?
どこもかしこも硬いし、照り返しも結構なモンだしなぁ・・・。
こんなバスで人はやってくる(屋根の上は荷物) アーグラー城の入り口 絶景かな
城を離れてサドは「何処に行きたい?」と聞く。私達は庶民が日常の買い物をするバザールに行きたかった。
「OK。でもその前に1件だけ。すばらしい大理石細工を見せるよ。」
来たか・・・。案内された建物の前では、職人がカラフルな天然石を削って花の形にしている。それを大理石の板に象嵌するらしい。
妙にソフトな話し方のインドおやじは「非常に高度な、ここでしかできない技術でぇす」と説明した後、うやうやしく店内へ導いた。
中には大小様々の大理石板。お値段もそれなりで、数十万円ほどの品ばかり。しかしキレイなのは認めるが、これは何に使うのだ!?
ただの飾り物にしてもやたら大きい物もあるし、第一20代でこんなもの買う人いるんか?
そんな思いをよそに、一人熱くディスカウントしていくおっちゃん。しかし”うん”と言わない私達。
小さい石版を前に「幾らなら買うねん?」と聞かれ、「幾らでもいらん。」と思いつつ諦めさせるつもりで300Rsと言ってみた。(ちなみに元値は60000Rsほど)
ため息と共におっちゃんは諦めた・・・ようなフリをして奥の手、秘密の低額商品の部屋に連れ込んだ。
そこにはお手頃価格でかわいい、石版なんかよりずっと使えそうな置物や小箱が。
『最初からこっち連れて来ぃや。』と心密かに思う。高いものを買わせたい気持ちも分るが、相手を見た方が良いぞ。
祖父母のお土産にゾウの置物と一番小さい箱を購入。店員達は多少不満そうではあったが、穏便に脱出することができた。
次は正真正銘のバザールへ。2時間後に待ち合わせをして、サドは別のお客を捕まえに行った。
いいかげん疲れていたので、とりあえず食事をする。ターリーというインド版定食。
おかずが5種類ほど付いているのだが、やっぱり全部カレー味(笑)。素材や微妙な味付けが違うとは言え、これで飽きないインド人が不思議だ。
エネルギーチャージを済ませてショッピングへ。しかし思っていた以上にうらぶれた店々。
主婦達が夕食の材料なんかを買いに来たりする商店街、てんちょの近所で例えるなら昭和通り(誰も知らんって)といった所だと思われるのだが、
物は少ないし店の人間はやる気ないし(寝てる店主も珍しくない)、当然私らの物欲を刺激するものもなかった。
服を買ったデリーのバザールは、四条河原町レベル(関西人には分かる)の存在だったようだ。
おまけに歩いてるのは男ばっかし。声かけて付きまとってきて、うるさいったらありゃしない。
ま、これはインドなら何処にいても同じことなんやけど。女性はどうやらあまり外に出ないのが普通らしいが、皆家で何をしてるんだろう?
バザールでござ〜る ピンぼけですが、これがターリー。すごい量
夕食用にリンゴを買った後、サドと合流。「いい物はあったか?」「いや、特に・・・。」
「そうか、じゃオススメの店に連れていくよ。きっと気に入る物がある。」
なんだかんだ言ってすぐコレや。でも他に行きたい所も別になかったので、連れていってもらうことに。
噂に聞くインドの押し売りも、話のネタになると思ったのだ。
着いた所は物産品を各種取り扱う、よくある店。さあ、がんばるぞ!
『カモが来た〜』書いてあるような満面笑顔の店員達に案内されたのは、まずは絨毯の部屋。
広々〜としたスペースにお客はウチ等だけ、むむ・・・。
手始めに作り方を教えてくれる。なるほど、確かに大変な作業だ。
いよいよ商品が広げられる。この大きさで2ヶ月かかるねんで。」「光の当り具合で色も変わるね。」
鮮やかな手さばきで波打たせたりひっくり返したり・・・。色合いといい、細かい模様といい、本当に美しい。
シルク製とウール製では、シルクの方がキレイだった。値段も高かったけど。
「ところで何か飲まへん?」と突然聞かれる。噂では、こうやって薦められる物には睡眠薬が入っていることが多いらしい。
眠らせて身包みをはがすらしいのだ。こいつぁ危ない。「お腹痛いからいらん。」
カシミールティーはお腹にとぉ〜っても優しいからねっ。」有無を言わさず出てくる紅茶。
これがまたすっごく良い香り!そう、どう考えても異様なほどに・・・。
『飲まへんよな?』目と目で合図するてんちょ&友人S。目の前ではじゅうたんの説明が続く。
ハサミでガ〜ッと引っかいたり、イスを乗っけてグリグリしたりしながら、丈夫さをアピールしている。
「すんごい強いやろ?羽賀 健二みたいに強いでぇ。」スケベそうな顔でオヤジギャグ?をかましてくれる。
どこでこういう事を覚えるんだろうか。その合間にもお茶を薦めることを忘れない。
「すばらしいけど、ウチ達はあまりお金を持ってへんの。それに家に敷く場所もないし。」
そう言うと彼は頭を抱えて悲しそうなフリ。それでもお茶を薦めるのは忘れない。
部屋には接客についてる青年以外に3,4人の男がいたのだが、彼等は遠巻きにウチ等を観察しながらじれったそうに首をかしげたりしている。
「なんで飲まんのや。」心の声が聞こえるようだ。
絨毯のネタも尽きたらしく、話はただの雑談に。その内、フランス人の団体が入って来た。
付きっきりでお茶を薦めてくれていた青年は「ボスが来たから。」と突然、よく分らない理由を言って慌てて私等を次の部屋へ連れていった。
そりゃ、他のお客の前で私等を眠らすワケにはいかんだろう。て事はあの中にはやっぱり・・・?
そこから出口まではまた幾つか部屋があってシルクスカーフだの絵だの置いてあったが、スリルはたっぷり楽しんだからもう興味はない。
「この絵どおや?かわいいゾウさんでっしゃろ?」四方八方から声を掛けられるが、
「う〜んそやね。」「かわいいなぁ〜楽しいなぁ〜♪」と関西弁で軽く流す。
「ぞ〜おさんぞ〜おさん、お〜ハナが長いのよぉ〜♪」歌いながらわしわしと進む私達を、もはや誰も止める事はできなかった。
外界への扉をくぐり強烈な熱さと日光に再開した瞬間、私達はそれぞれ心の中でつぶやいた。
「勝った。」と。
そんなもんで納得しないサドにその後3,4件連れまわされたが、何処でも欲しい物以外は買わずに、眠らされる事もなく無事脱出に成功した。
しかし絨毯屋が多かったのはナゼだろう?この日だけですっかり絨毯博士になってしまった。どこの店でも説明は一緒なんやもん。
作り方を説明して手作りである事を強調してから販売する。
余談だが1件の店には日本語を話す人が居て、彼もまた”てぢゅくり”と言っていた。インド人は”づ”の発音が苦手らしい(笑)
ガイドブックにはこの”土産物店”というところは大変危険で、絶対何かを買わされるハメになる、又は睡眠薬を盛られるので気を付けるようにと書いてある。
しかしインドの人々とゆっくり会話ができる良い場でもあると思うし、私達にはそれなりに結構楽しい場所やったんですが・・・。
まぁ、紙一重な部分も多々あったけど、そのスリルも日本では味わえない貴重な体験ではある。
ポイントは、いらん物はいらんとハッキリ言う事。日本人は相手に気を使って遠まわしに断ろうとする人が多いのではないか?
その人に良さに彼等は付け入ろうとするのだ。「好きじゃないしいらん。」最終的に危なくなったら、真顔でこの一言を言う。
すると相手は以外にあっさりと引き下がりましたよん。
5時過ぎにホテルに戻る。安い値段で引っ張りまわして、買い物もあまりしないでごめんね、サド。
最後まで紳士的だった彼に、心ばかりのチップを上乗せして払う。彼はこんなあつかましいお客に
「いつも朝は駅にいるから、明日も良かったら来てくれ。」と言ってくれた。ありがとう。ノートの言葉は本当だった。
寝心地の良いベッドで眠りに落ちる前に2人は話す。そ〜いえば一日中出てて、観光名所って一ヶ所しか行かんかったな・・・。
その割に、この満足感は一体?ウチらって変かも。
数々の戦いを思い出し、お腹がよじれるほど笑って、笑いつかれて眠りに落ちた。