10月15日 ガンガーのほとりで その壱
朝5時起床。今日も日の出を見に行くぜ!ってなわけでこんな時間に起きても、昨日がフテ寝の一日だった為、全〜然つらくない。
昨日に劣らぬ感動が押し寄せる。これを毎日見ている人達なんだから、インド人はやっぱ貧しくても気高いんだろうな・・・
クーラーかけっぱなしで寝たら、さすがにこんな暑いインドでも夜中は寒かったな。
ミネラルウォーターを飲んだ後、徒歩にてぷらぷらガンガーへ向かう。
もはやほとんどノーメイク。日焼けの問題がなかったらファンデーションも塗らんかったでしょう、きっと。
辺りは薄明るくなってきたのに、水平線の向こうに太陽が見えない。雨季と乾季がはっきり分かれているこの国で
『今日は低気圧が入りこみ曇るため、日の出は見えないでしょう』なんて事あるはずがない。
おかしいな・・・と思ってたら、あら、ちゃんと上ってきましたやん。川面と空の境目が真っ赤になったと思ったら、
トマトのような太陽が『も〜い〜かい?』って感じで顔を出した。
昨日は気付かなかったけど、太陽は私達の目に触れる前からこんなに空全体を明るくするようなパワーを持っているんだ〜、と新たな(今さら?)な発見をした。
日の出再び
なんてせっかく思ってるんやから、人の気を無視して「ボート安いで。So チープ!」とか横から言うの止めようや(怒)
最初はそれどころではなくうっとりしながら無視していた私達も、いつものしつこさにだんだんイライラしてきた。
「これさえなけりゃ、インドの事大好きやのにな。」
日本語でため息に話すウチ等の会話に入りたかったらしい若いボートの客引きは「なになに!?」という感じでますます寄って来る。
なぜだかそんな彼にてんちょはキレてしまった。「I hate You !」 強い口調で言うと彼は驚いて立ち去った。ごめんね、ホンマはこんなこと言いたくないのに。
毎日この神秘を見てる人達には、この風景に涙が出るほど感動するというのが理解できないらしい、という事が良く分かった・・・。
朝食を済ませ、ミネラルウォーターを買いこんで再び河へ。日陰の階段によっこらしょと腰を下ろす。地面はもちろん恐ろしく汚いが、もうどうでもエエのだ。
乾いてさえいれば。
私達の側に40〜50代と思われるインドのお父さん達が7人くらいで井戸端会議をしている。何をしゃべってるかは分からないが、かなり楽しそう。
しかし平日のこの時間にこんなトコにいて、彼等は今日はお仕事休みなんだろうか。時折手を叩きながら大爆笑している彼等の表情は、10代の男の子のようだ。
きっとしょうもない事しゃべってるんだろう(笑)。そういえば、日本であんな風に笑い合う大人の男達を見たことがない。
居酒屋で盛り上がっているサラリーマン軍団とは違って、彼等はもっと健康的で幸せそうに見える。
「あ〜何かイイね。」そう言ってふと座っている階段の上部を眺めると、バックパッカーや単独インド人やサルが点々と座って同じように呆けている。
「同じような人が点々と居るね〜。」「うん、同じようなサルも点々と居るね〜。」
共存ってまさにこういう事だろうか。そして、こうやってお休みモードのインド人達は、日本人にちょっかいかけてくる事はない。
人もサルもお互い自然に他者を無視している、不思議で気持ち良い空間である。
人間に劣らぬ数いるサルもイヌもウシも(もちろん野良)、おとなしくて危害を加えにきたりしない。媚に来りもしない。
目の前には緩やかな流れの大河。そこで泡まみれになって身体を洗う人達、泳ぐ子供達。この国では神聖なものだからといって遠い存在ではなく、生活の一部なのだ。
なんせ愛する者の亡骸を流し、神妙な心で沐浴する河で洗濯してウンコまでしてしまうんだから。このおおらかさは何だろう・・・。
日当たりが良くなってきたので移動することに。ふら〜っとしていると、一つの火葬場から煙が昇っている。
すぐ近くでそれをじ〜っと見ている牛の横に行って、私達もしばらく見ていることにした。
火葬場には燃やす場所が二つあって、河に近い一段高くなった場所は上層カーストの人用なんだそうな。下層カーストの人間はもっと岸に入りこんだ場所で焼かれる。
この日一日、空き地の方では順番待ちまでして一日中誰かが焼かれていたが、河に近い方で誰かが焼かれるのは一度も見なかった。
身分の低い人の方が圧倒的に多いのと、そういう人達の方が病気になりやすく、亡くなる率が高いんだろう。
薪が燃え尽きて、残った亡骸は無造作に河に投げ込まれる。表面は黒焦げだが形はほとんど残っている。
人を完全に燃やすにはかなり大量の薪と時間がかかる。それだけの量の薪は、よほどのお金持ちでないと買えないんだそう。
でも燃え残った肉はガンガーの魚が食べて、綺麗にしてくれるらしい。
身体の中でもっとも強い部分がもっとも燃えにくいそうで、男なら胸、女なら腰ということらしい。
これらの知識はいつの間にか現れた火葬場守が説明してくれた。(そのあとちゃっかりお金要求されたけど)
一人終わると次が待っている。オレンジに布に包まれた身体は女性のものらしい。お祈りをして火をつけた後、遺族は一旦引き上げていく。
布が燃え尽きると、人間のシルエットが炎の向こうに現れた。
まず脂肪が溶けたと思われる液体がぼたぼたと落ちて、それからゆっくりと焦げていく。関節で身体がばらばらになっていく。
キャンプファイヤーのような薪の山からひざ下部分が転げ出てきて、火葬場守はそれを棒で無造作に戻していた。
その横で、落ちていた棒で死体をつついていた子供が怒られていた。
これらの風景を『いや〜ん気色悪い〜怖い〜』なんて思わずに眺めている自分が少し不思議だった。
人はいつか誰しもこうなる、というような説得力があの場所に満ちていたのかもしれない。
川辺にはこんな建物が。昔のマハラジャ・ハウスだそうな
時間が経つにつれ客引きが増えてきた。うっとおしいので人の少なそうな、小さなガートの方へ移動する。
お昼時になるともはや日陰なんてどこにもありゃしない。空はどこまでも青く、日差しはどこまでも狂暴だ。
目の前に河は広く対岸は砂浜なので、海に居るような錯覚を覚える。
時折何か巨大な魚が跳ねる。通り掛かりのおっちゃんが淡水イルカだと教えてくれた。かと思うと牛の死体がゆっくり流れてくる。
生も死も飲み込んだ河なんだな。本当にここにいると飽きることがない。
どこへも行かなかった一日。しかしこの一日の出来事が多すぎて、ええかげん長くなってきたのでこの辺りで一旦切りあげましょう。続きは後半編で。
つづく